友好団体高知県労連の情宣
最低賃金は「生きるための土台」である
最低賃金は「生きるための土台」である
――全国一律1500円へ、いま社会が選ぶべき道――
1.1000円を超えた、その先にある現実
2025年度の最低賃金改定により、全国すべての都道府県で時給1000円を超えた。長年の努力が実を結んだ到達点であり、その意義は決して小さくない。
しかし、現実の暮らしはどうであろうか。食料品の値上げ、電気代やガス代の上昇、家賃や通信費の負担増――月末に家計簿を見つめ、ため息をつく家庭は少なくない。1000円という数字は、依然として「生活できる賃金」とは言い難い水準にある。
最低賃金は単なる象徴ではない。働く人びとの日常を支える、極めて現実的な生活の基盤である。
2.発効日の先送りが生む、見えにくい不公平
今回の改定で深刻なのは、最低賃金の発効日が地域によって大きく異なったことである。10月に発効する地域がある一方、11月、12月、さらには翌年に持ち越される地域も生じている。
この差は数字としては見えにくい。しかし、同じ仕事、同じ時間を働いても、賃金引き上げが遅れることで、その間の収入差は確実に生活を圧迫する。物価は全国一律で上がっているのに、賃金だけが地域によって遅れる構造は、公平とは言えない。
この仕組みは、地方から都市部への人口流出を促し、地域の人手不足と経済の弱体化をさらに進める要因ともなっている。
3.「準備期間」という説明の限界
発効日先送りの理由として、「使用者の準備期間が必要である」と説明されている。しかし、どのような準備が、なぜこれほどの期間を要するのかについて、明確で納得のいく説明は十分とは言えない。
一方で、最低賃金の引き上げを切実に待っているのは、日々の暮らしに余裕のない労働者である。理由があいまいなまま先送りが続けば、「誰のための制度なのか」という疑問が生まれるのは当然である。
最低賃金は賃金を抑制するための制度ではない。生活を守るための制度である。
4.最低賃金法の原点に立ち返る
最低賃金法の目的は、賃金の最低限を保障し、労働者の生活の安定を図ることである。これは憲法が保障する生存権を、社会制度として具体化したものである。
その原点から見れば、生活が苦しい局面で改定の効果が遅れる現状は、制度の趣旨と乖離していると言わざるを得ない。判断の中心に据えるべきは、「事業の都合」ではなく、「働く人が生活できるかどうか」である。
5.生計費にもとづく最低賃金と全国一律1500円
最低賃金を真のセーフティーネットとするためには、生計費にもとづいた決定が不可欠である。家賃、食費、光熱費、教育費――これらを無理なくまかなえる水準こそが、最低賃金のあるべき姿である。
同時に、地域によって生存条件が左右される現状を改めるため、全国一律最低賃金制度の実現が求められる。「2020年代に1500円」という政府目標は、決して過大な理想ではなく、普通に働けば普通に暮らせる社会の最低条件である。
6.高知から広げる、生活に根ざした確かな根拠
高知県労連は最低生計費調査を通じ、働く人びとの生活実態を数字として示してきた。声とデータを積み重ねることで、最低賃金引き上げの必要性は、社会に共有されていく。
最低賃金は数字ではない。この社会が働く人をどれだけ大切にしているかを映す鏡である。1000円を超えた今こそ歩みを止めるのではなく、全国一律1500円へ、確かな一歩を踏み出すときである。
高知から全国へ。誰もが安心して働き、安心して暮らせる社会を、私たち自身の手で実現していこう。
対話が広げる未来――レバカレ2025に見た新しい労働運動
1.全国から700人が集結、学びと交流の三日間
2025年10月11日から13日にかけて、全国の労働組合員や関係者およそ700人が集まり、「レイバー・ユニオン・カレッジ(通称レバカレ)」が開催された。
全労連をはじめ多くの組織が協力し、職種や産業の違いを越えて「対話と学び合い」を深める三日間となった。
高知県からは高知県労連(高知県労働組合連合会)の仲間4名が参加し、全国の経験と理論を共有した。今回のレバカレは、単なる研修や報告の場ではなく、参加者一人ひとりが現場の課題を持ち寄り、語り合い、次の行動を見つける実践の場として大きな意義を持った。
2.岡上委員長が見た“声をつなぐ力”
全体会では、「労働組合は魔法である」という印象的な言葉が語られた。人と人をつなぎ、社会を少しずつ動かす組合の力を象徴している。
一方で、岡上則子・高知県労連委員長は、多くの労働者が自らの権利を奪われたまま沈黙している現実に目を向けた。自由な発言や行動が制限される今、健全な労使関係を築き、誰もが声を上げられる社会を取り戻すことが急務である。
岡上委員長は、職場の取り組みとして、組合員の学習や活動を支える「組合活動希望休暇」制度を紹介した。また、管理職にも組合活動の意義を理解してもらう工夫を進めているという。
さらに、学習会の参加者数やアンケート結果を数値化して分析するなど、成果を“見える化”して次につなげる取り組みも報告された。こうした実践が、組合活動をより開かれたものにし、職場全体の理解を広げる礎となっている。
3.牧書記長が学んだ“支え合うリーダーシップ”
もう一つ、高知から注目すべき報告があった。牧耕生・高知県労連書記長が参加した「手法から考える労働運動」分科会である。テーマは「コーチング」――仲間の中にある答えを引き出すための対話の技法である。
牧書記長は、観察・診断・介入・共有・振り返りという5つの段階を学び、「教える」よりも「気づかせる」支援が組織を強くすることを実感したという。
また、アメリカの労働運動研究団体レイバーノーツのエレン・D・フリードマン氏が講演し、「オルガナイザー(組織者)」の4つの役割を提示した。
①労働者が自らの立場を理解する手助けをする。
②正規・非正規などの分断を越えて連帯をつくる。
③報復や不安を乗り越える支えとなる。
④行動を振り返り、次の一歩へつなげる。
これらの視点は、国内の職場でもそのまま通じるものであり、現場のリーダー像を再考するきっかけとなった。
4.“やらねばならない”から“やってみたい”へ
牧書記長は報告の中で、「やらなければならない運動」から「やってみたい運動」へと発想を転換する必要性を語った。義務や抵抗から始まる運動ではなく、仲間と希望を共有しながら自発的に動く運動へ――。その中心にあるのが、一人のリーダーに依存せず、全員が力を発揮する「スノーフレイクリーダーシップ」である。
この考え方は、レバカレ全体を貫く“共に学び、共に動く”という精神と重なっており、多くの参加者に共感を呼んだ。
5.今後への期待――学び合う文化を高知から全国へ
レバカレ2025が示したのは、労働運動の再出発には「学び」と「対話」が欠かせないという事実である。
700人の参加者が語り合い、悩みを共有し、希望を見出す中で、「労働組合は社会を動かすことができる」という確信が育まれた。
岡上委員長は、全国の仲間から学んだ多様な工夫を高知に持ち帰り、次代の組合員と共有していく意欲を語っている。牧書記長も、現場の組合員が自ら考え行動できる環境づくりに取り組む方針を示した。
沈黙から声へ、孤立から連帯へ。
学び合い、支え合う文化を高知から全国へ――。
レバカレ2025で生まれたこの新しいうねりは、これからの労働運動に確かな希望の光をともすであろう。