友好団体高知県労連の情宣
連帯と対話で切り拓く「人間らしく生き働く社会」への道
2025年9月7日、高知県労働組合連合会(県労連)は第38回定期大会を高知城ホールで開催し、代議員60名が参加した。大会では「物価高騰から生活を守る」「対話と学び合いで前進を勝ち取る」ことを主題に、各職場・地域からの切実な声が寄せられた。全体を貫く共通の基調は、「人間の尊厳を守るための労働運動を、地域とともに再構築する」という決意である。
1.生活防衛のための「4つの要求の柱」
冒頭、執行部から提示された「4つの要求の柱」は、今後一年の運動方針を明確に方向づけた。
①大幅な賃上げと底上げを進め、労働法制改悪を許さない、
②長時間労働の是正とハラスメント根絶を進め、人権・ジェンダー平等を重視する、
③地域の「公共」を取り戻し、誰もが住み続けられる社会を実現する、
④政治に立憲主義を取り戻し、県内課題の前進を図る――。
これらはいずれも、高知の地で働く人々が直面する生活危機と直結するものである。特に、物価高騰による実質賃金の低下が止まらない中、「生計費に基づく賃上げ」を基準とした最低生計費試算調査のアップグレードは、運動の現実的な柱となる。県労連が「必要な生計費」を数値で示すことは、労働者の生活実態を可視化し、賃金闘争を“感情論”から“根拠ある要求”へと高める挑戦である。
2.「公共」を取り戻す地域闘争へ
もう一つの焦点は、介護・福祉分野における地域の「公共」を守る運動だ。中央社保協や全日本民医連と連携し、「介護保険制度の抜本改善と処遇改善」を求める請願署名運動を進めることが確認された。これは単なる福祉政策の改善ではなく、「地域に生きる人々の尊厳を守る」社会運動でもある。
介護報酬の引き上げが遅れる現状では、現場職員の疲弊が深刻化し、離職の連鎖が止まらない。高知という地方において、介護や医療の人材流出は「地域の崩壊」に直結する。だからこそ、地域の声を国に届ける意見書運動や、自治体への要請行動は「地域を守る最後の砦」となる。
3.現場発言に見る労働のリアル
代議員発言では、各産別・地域の現場実態が生々しく語られた。
まず、嶺北労連の町田代議員は、70回目を迎えた地域メーデーのあり方を問い直した。「国道デモやシュプレヒコールは時代に合うのか」という問題提起は、運動文化の継承と革新の両立を問うものだ。コロナ禍を経て、地域行事の再構築が求められていることを示唆している。
高知県教組の石川代議員は、教員の過酷な実態を告発した。休憩はわずか5〜7分、病休者の6割がメンタル疾患という事実は、教育現場が限界にあることを示している。教職調整額10%の引き上げを「見なし残業化」と批判し、「ゆきとどいた教育」署名運動を強化する決意を語った。
自治労連の細川代議員は、県による消防広域化政策を「地方自治への介入」と批判。消防職員が組合を作れない現実を踏まえ、「声を上げられない労働者の代弁者」としての自治労連の使命を訴えた。
高知一般の前田代議員は、最低賃金上昇による中小企業への影響と労働者の生活苦の板挟みを指摘。土佐食の職場で最低賃金近傍の労働者が多く、「賃上げ交渉を重ねなければ生きられない」実態を明らかにした。ここには「賃上げが進むほどに雇用が不安定化する」という矛盾が浮かぶ。
自治労連の福岡代議員は、室戸市役所での人員不足とハラスメントを報告。「マイナポイント業務では23時まで勤務」という発言は、地方行政の限界を象徴している。組織的支援と制度改善の必要性が強く示された。
こうち生協労組の笹岡代議員は、若手職員の主体的な組合活動が拡大の鍵になることを指摘。25人でのストライキを実施したが要求には届かず、組合員の離脱もあったという。だがその中でも「組合の存在が労使対等の緊張感を生む」との言葉には、運動の核心が込められている。
年金者組合の畑山執行委員は、「戦争は最大の環境破壊」と喝破。現役世代への連帯を呼びかけ、選挙を通じて社会の方向を変える重要性を訴えた。
医学連の和田代議員は、医療・介護分野での賃金低迷と人員不足を告発。「政府も医療現場の健康リスクを認めざるを得ない状況」とし、大幅増員署名を呼びかけた。医療従事者が社会を支える「最後の砦」であることを再確認させる発言だった。
私学教組の佐々木代議員は、高知学園での人件費削減提案に抗し、「私学助成拡充」を求める署名運動を報告。少子化と経営難に苦しむ私学現場が、教育の公共性を守るために奮闘している現状を浮き彫りにした。
最後に、自交総連の横田代議員がライドシェア問題を報告。維新が推進する法案を「タクシー労働者の生活破壊」と断じ、反対運動への支援を求めた。さくらハイヤー裁判の和解報告に感謝を述べつつ、組合員が残れなかった悔しさを滲ませた。この発言には、「公正な労働市場を守る戦いは終わっていない」という強い警鐘が込められている。
4.総括と展望 ― 連帯と希望の再構築へ
大会全体を通じて浮かび上がったのは、「労働組合が地域社会の再生装置として再び機能し始めている」という兆しである。賃金・人権・公共・平和――これらの課題は一見ばらばらだが、根底には「人間らしく生きる権利の回復」という一本の軸が通っている。
岡上則子執行委員長を先頭に、牧耕生書記長ら新役員体制が発足した。多様な世代と産別を束ね、県民の声を「現場の言葉」で政策に反映させる力が問われる。
物価高、賃金低迷、長時間労働、ジェンダー格差、医療崩壊、戦争の影――。多くの課題が複雑に絡む今こそ、「対話と学び合い」が組織の生命線となるだろう。
現場の声を束ねるこの大会は、単なる定期行事ではない。そこには、働く者一人ひとりが社会を変える主体として立ち上がる「希望の原点」が息づいている。
県労連の次なる一年は、この“希望の連鎖”をどこまで広げられるかにかかっている。
暮らし続けられる賃金を求めてー高知県の最低賃金と全国的課題ー
・最新の最低賃金水準
令和7年(2025年)12月1日から発効する高知県の最低賃金は1,023円である。
同年度の全国加重平均額は1,121円、東京都は同年10月3日から1,226円となっている。
この数値は、高知県が全国水準や大都市圏と依然として大きな格差を抱えている現実を示している。
・高齢者の実態と最低賃金
8月4日に開かれた高知地方最低賃金審議会において、県労連の代表が意見陳述を行った。
年金受給者の生活実態として、多くの高齢者が「もう働かなくてもよい老後」を実現できず、最低賃金水準に近い非正規・短時間労働に従事せざるを得ない状況が報告された。週20時間の労働で月収はおよそ5万円程度にとどまり、物価高騰が重なり生活がより厳しくなっている事実が浮き彫りとなった。
・人口流出と外国人労働者の確保
県労連の牧書記長は、最低賃金格差が働き手の確保や人口移動に影響を与えていることをデータで提示した。
外国人労働者比率を見ると、高知県を含む四国・山陰各県は0.2~0.3%にとどまる一方、隣接する賃金水準の高い県に人材が流出している。日本人においても、最低賃金の高いA・Bランク地域への移住が増加しており、2024年には高知県からBランク地域へ移動した人数が前年比でほぼ倍増している。
最低賃金の地域格差が労働力確保の阻害要因となっていることは明白である。
・支援策の有無と高知県の課題
国は最低賃金引き上げに伴う事業者支援として「業務改善助成金」を設けている。四国では徳島県や愛媛県が独自に上乗せ制度を実施し、香川県高松市では奨励金制度を導入している。
しかし、高知県だけが独自の支援策を持たず、助成金申請件数も前年を下回っている。この姿勢が事業者の賃上げをためらわせる大きな要因となっている。
・考察と期待
高知県の最低賃金は全国平均を大きく下回り、東京都との差は200円を超えている。
この格差は単なる数値の違いではなく、労働力確保の難しさや人口流出、高齢者の困窮という深刻な社会問題を引き起こしている。
また、賃上げを後押しする支援策が県独自に存在しないことは、地域経済の発展を阻害する要因となっている。
最低賃金の引き上げは、労働者の生活安定と地域の持続可能性を確保するために不可欠である。特に高知県のような地方圏においては、単なる賃金改定にとどまらず、事業者への具体的な支援策と一体で進める必要がある。
暮らし続けられる賃金として「最低1,500円」という声は、もはや夢物語ではなく現実的な社会的要請である。県と国が協力し、生活者と事業者双方が安心できる仕組みを構築することが期待される。